プロジェクトマネージャーと並び、プロジェクトの中心的存在であるプロジェクトエグゼクティブ(Project Executive/PE)の役割責任について見ていこう。
プリンスでのプロジェクトエグゼクティブは指揮階層に位置し、シニアユーザーとシニアサプライヤーと共にプロジェクト委員会(Project Board)を形成する。
プリンスの組織では、プロジェクトにおける階層は3つある。
上から、順に以下の並びだ。
- プロジェクト委員会【プロジェクトの指揮階層】
- プロジェクトマネージャー【プロジェクトの管理階層】
- チーム【成果物の提供階層】
プロジェクトエグゼクティブはビジネスケースの所有者であり、プロジェクトの発起人である。
プロジェクト開始時に、自分の手足となり現場を仕切るPMはもちろん、自分を支援してくれるシニアユーザーとシニアサプライヤーを任命し、プロジェクトのマネジメントチームを形成する。
プロジェクトエグゼクティブについて、何をしてくれる人かわからないという問い合わせもあるので、もう少し深掘りしてみたい。
1.プロジェクトの説明責任はプロジェクトエグゼクティブにある。
2.決定者はプロジェクトエグゼクティブだけである。
3.プロジェクトに関わるルールはプロジェクトエグゼクティブが承認する。
具体的に見ていこう。
1.プロジェクトの説明責任はプロジェクトエグゼクティブ(以下エグゼクティブ)にある。
ビジネスケースのオーナーとして、プロジェクトを成功裏に収める責任はエグゼクティブにある。なんでもかんでもPMに任せるエグゼクティブがいるが誤りだ。
エグゼクティブは自分が務めるプロジェクトに積極的に関わり、PMを指導したり支援したりしなくてはならない。丸投げではいけない。
プロジェクトを監督しているコーポレートPMOだったり、プロジェクトが帰属するプログラムに対しての説明責任もエグゼクティブにある。上層部とのやりとりをPMに任せてはならない。上位マネジメントの戦略とプロジェクトの方向性が合致していることを担保するのはエグゼクティブである。
米国プロジェクトマネジメント協会のPMBOKを採用する組織では、総じてPMにかなりの権限を与えている。スポンサーの意向を汲んでほぼ全てのことをするイメージだ。
プリンスでは、PMが持てる権限範囲を含め、エグゼクティブがプロジェクトについてすべからく決定する。
2.決定者はプロジェクトエグゼクティブだけである。
プロジェクトに関わる重要事項はプロジェクト委員会を経て決定される。
プロジェクト委員会にはエグゼクティブの他、シニアユーザーやシニアサプライヤーもいるが、決定者はエグゼクティブただ1人だ。
シニアユーザーやシニアサプライヤーはエグゼクティブが総合的に正しい判断ができるよう支援するだけで、決定権はない(エグゼクティブから権限委譲されている場合は除く)。
エグゼクティブは船の艦長と同じである。
艦長は船に関する全ての権限を持つ。副艦長や操縦士は艦長の補佐であり、決定者ではない。出航する時も、攻撃を開始するときも、万が一船を捨て撤退するときも艦長命令なしに行動を起こしてはならない。
だから、プロジェクト委員会の決定は多数決ではない。シニアユーザーやシニアサプライヤーが複数いて、仮にエグゼクティブ以外全員が反対しても、エグゼクティブが承認すれば、進めることになる。
更に言うと、決定事項についてPMはノーと言えない。現場の実行責任者としてエグゼクティブの決定に基づき実装していかなくてはならない。
サッカー(英国ではフットボールだが)の監督と選手の関係と同じである。監督が言ったことは絶対だ。選手はそれを体現していかないといけない。
プレミアリーグでは監督はスーツで、選手とは区別される。
ライン際まででてきて指導する監督が、選手と同じユニフォームだと混乱するという理由もあるが、役割が完全に異なるのである。監督が戦略を練り計画したことを、選手は実行する。
ここまで読んで気づかれたと思うが、エグゼクティブとPMの関係は非常に重要になってくる。エグゼクティブである監督の意図をフィールドで表現するのが10番を任されたPMである。PMはエグゼクティブと定期的に公式・非公式な打ち合わせを通して同期をとることが必要だ。
3.プロジェクトに関わるルールはプロジェクトエグゼクティブが承認する。
プリンスの考え方は、フレデリックテイラーの科学的管理法(Scientific Management)がベースになっている。
上級マネジメントであるプロジェクト委員会が戦略を練り、計画してプロジェクトを監督する。メンバーは定められたルールに従い、実行するのが仕事だ。
プロジェクトのルール化をどこまで厳密に行うかはプロジェクトの種類、エグゼクティブとPMとの関係、実装部隊であるチームの経験やスキルによる。
組織として初めて取り組む案件で、エグゼクティブとPMとが初めて組んで仕事するなら、エグゼクティブはリスクを考慮して、頻繁にそして詳細に進捗をチェックしたいだろう。当然、ルールも細かくなる。
一方、組織として経験値のある案件で、エグゼクティブとPMが既に良好な人間関係を築いていれば、チームはより自由な環境の中で作業できる。
チームの箸の上げ下げまでチェックするのか、大枠でルールだけ決めて後は自由に任せるのか、プリンスでは許容度(トラレンス)を決めて、プロジェクトを進めていく。
プロジェクト委員会がプロジェクトを指揮すると言っても、この階層にいる人物は暇ではない。だから、プロジェクトに貼り付いて常時関わっていられる訳ではない。
プロジェクト委員会の負荷を下げつつも、プロジェクトに必要なコントロールが効くよう、PMが持てる許容度(トラレンス)を設定しておく。この度合いを承認するものエグゼクティブである。
プロジェクトエグゼクティブは許容度を使って効果的にプロジェクトの状況を掴んでおくと共に、プロジェクトを取り巻く外的な環境の変化にも注意を払いながら、自らのビジネスケースの健全性を継続的に評価していく人物である。
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