あなたは魚釣りをしたことがあるだろうか。
アジャイルは魚釣りに似ている。
説明しよう。
フィッシングで一番重要なこと。それは魚が釣れることだ。
「なにを当たり前のことを」と思うだろうが、そんな「当たり前のこと」でも、実際、魚を釣るのはなかなか難しい。
魚を釣るために重要なことは、以下の3つだ。
- 釣れるポイントを探す
- 釣れる餌をつける
- 釣れる道具を揃える
ライフジャケット、長靴、冬場ならカイロや手袋等、他にもいろいろあるだろうが、上の3つは外せないポイントだ。
そして、この中でも一番重要なのは、「釣れるポイントを探す」ことである。
どんなにいい餌を用意し、最高の道具で望んでも、ポイントに魚がいなければ釣れない。
魚がいる前提での釣りだから、魚が皆無なら、成り立たない。
そこで、エリック・リース氏 (Eric Ries) のリーンスタートアップ (The Lean Startup) である。
リース氏は、リーンスタートアップを、次のように説明している。
The Lean Startup provides a scientific approach to creating and managing startups and get a desired product to customers’ hands faster. The Lean Startup method teaches you how to drive a startup-how to steer, when to turn, and when to persevere-and grow a business with maximum acceleration. It is a principled approach to new product development.
リーンスタートアップは、新しい会社を立ち上げたり、素早く顧客の望むプロダクトを届ける科学的なアプローチである。リーンスタートアップは、会社やプロダクトを、正しいタイミングで方向転換させたり、そのまま継続させたりしながら、トップスピードで成長させていく方法である。リーンスタートアップでは、新製品開発を、原理原則に基づいて進めていく。
Too many startups begin with an idea for a product that they think people want. They then spend months, sometimes years, perfecting that product without ever showing the product, even in a very rudimentary form, to the prospective customer. When they fail to reach broad uptake from customers, it is often because they never spoke to prospective customers and determined whether or not the product was interesting. When customers ultimately communicate, through their indifference, that they don’t care about the idea, the startup fails.
多くの企業は、顧客が欲しいであろうプロダクトのコンセプトについて、数ヶ月、または数年かけて煮詰める。その間、実際の顧客にはプロダクトの概要すら話さずに、である。そして、大々的に新製品を販売してみると、顧客がプロダクトに全く関心がないことがわかり、大失敗するのである。あまりにも多くの企業は、間違ったアイデアを温め、間違ったプロダクトを完璧に作り上げて、失敗するのだ。
状況が不透明であるほど、人間は、状況をなんとか捉えようとして、もがく。
プロジェクトの立上げを思いだそう。不透明な要求を懸命になって洗い出す。様々な前提を置いて、全体計画や見積りを試みる。残念ながら、ピタリと合う計画書や見積書を作ることは無理だ。最終的な完成品をイメージするには、状況が不透明すぎるのである。無理なことに時間をかけるムダはやめよう。
とりわけ、新しい事業や新しい製品・サービスをスタートする場合、不透明さはマックスだ。リース氏は、このような状況で、以下のプロセスを回すことを薦めている。
- 新規事業や新製品のアイデア
- 短期間で試作品(MVP: Minimum Viable Product)を作る
- 試作品を顧客にぶつけて、反応を見る
- 反応を測り、事実を掴む
- 顧客の嗜好を学び、判断する(方向転換、またはそのまま継続)
後は、このループを継続的に繰り返し、企業や製品をどんどん改善していく。MVPからMLP(Minimum Lovable Product)に仕立てていく。
もとの釣の話に戻そう。
地図を見て、水面を静観して、うんうん考えても、魚がいるかどうかわからない。
いそうなところに、糸を垂らした方が速い。
糸を垂らし、反応があるか観察し、予想が正しいか検証する。
15分間、いそうなポイントを探し回るより、良さそうなところに、とりあえず糸を垂らしてみる。そして、反応を見る。5分単位で移動すれば、3カ所で魚がいるかどうかわかる。
15分かけて、いそうなところを1カ所見つけるより、同じ時間かけて、3カ所いないところがわかる方が、遙かに効率がいい。
初めて釣りをする人、初めてのポイントで釣る場合、時間をかけて予想しても、当る確率は非常に低い。万が一、当たっても再現性がない。それより、実際に釣りながら、いない場所を特定していった方が速い。
ひとたび魚がいるポイントにたどり着いたら、いよいよ釣りである。
この時点で「いる魚を釣る」前提が成立している。
いない魚を釣るのは不可能だが、いる魚を釣るのは創意工夫である。
粉えさの調合比率を変えたり、ルアー(疑似餌)の形状、色、大きさを変えたりして、スクラムの「検査」と「適応」プロセスを回す。糸の太さや色、餌やルアーのサイズ、巻き上げるスピード等、いろいろ試しながら、ターゲットとなる魚の反応を観察する。
自分で試しながら探索するだけでなく、周りでよく釣れている人がいれば、どんな餌を使って、どんな釣り方をしているのか、プロセスやビヘイビアを観察したり、アドバイスをもらえばいい。
極限の不透明な状況では、リーンスタートアップとスクラムのコンボで対処しよう。
初めてのことでは、ひらめきも勘所もない。そんな状況で、一投目からヒットする確率は、ない。
全くの新規案件の場合、オフィスの中だけでアイデア構想しても、現実からどんどん乖離していくだけである。プロダクトコンセプトの肝であり、リスクの最も高い機能を、シンプルな試作品に込めて、顧客にぶつけてみる。反応を見て、検証する。手応えがあれば継続 (Persevere) だ。反応がなければ、方向転換 (Pivot) である。
反応が得られたら、お決まりのスクラムでMLPをこしらえていく。
リース氏の話の中で、リーンスタットアップを使った逸話としてザッポス社が登場する。
ザッポスは、現在はアマゾン傘下の企業だが、全米の「働きたい会社」の常連である。元々、イギリス人のNick Swinmurn氏が1999年に起業した会社だ。
当時、彼は、これからはオンラインで靴が売れると考え投資家に売り込んだ。彼のアイデアを検証するため、彼は地元の靴屋さんに行って写真をとり、それをネットに載せた。注文が入ったら、その靴を購入して送った。やがて注文が殺到し、彼1人ではさばききれなくなった。
こうして、彼は自分のアイデアが正しいことを証明し、投資家を説得することに成功した。
限られた既知の情報を頼りに、地図や水面とにらめっこしても、時間を無駄にするだけだ。
それより、短期間で試作品を作り、顧客にぶつけてみて、反応を見る方が、遙かに多くのインプットが得られる。もしかしたら完全なる失敗に終わるかもしれないが、どうして失敗したのか学んだだけ前進できる。途中で止めない限り、次の成功に繋がる糸口が得られるのだ。
最初はゼロスタートだ。
だが、パズルのピースのように、一つ一つ埋めていき、徐々に埋まってくると、後半一気に加速する。輪郭が見てくると、皆のモチベーションも上がる。作業は勢いづき、やる気で満ちあふれてくる。
アジャイルは経験により加速する。
ピッチダークの状況なら、リーンスタートアップで「探索」し、スクラムで「検査」と「適応」を繰り返そう。
構築 → 計測 → 学習 → 検査と適応
時間をかけても、状況が変わらないなら、速く始めた者が勝つ。
不透明を透明にするには、一歩踏み出すことだ。
![]() |
新品価格 |