恐らく10年位前まで、私たちはよりよい商品を求めて、購買を繰り返してきました。「よい商品」とは高付加価値の商品です。それは機能が多いとか、スペックが高いとか、より多くのことができる便利なプロダクトです。私たちは3~5年毎に、より高性能な商品に買い換えてきたのです。
今、私たちの周りには優れた商品が犇めいています。どの商品も機能が充実し、高性能です。ポルシェ、メルセデス、BMW、アウディ、メーカーは違えどトップラインの機能と性能は似たようなものです。ブガッティ、マクラーレン、フェラーリ、日産GT-R含め、ガソリン車のカテゴリーで他社を圧倒する機能・性能を備えたメーカーはありません。
機能・スペックが均一になってくると、それ以外の部分が決め手になります。
車であれば、エクステリア・インテリアは重要なポイントです。ブランドイメージもあるでしょう。
メルセデスの新型CLSをご存じでしょうか。シャープなシルエットとサメ顔。好き嫌いは分かれるでしょうが、ビビッときて即買いされた方も多いと聞きます。
レクサスのLC500もとてもセクシーな車です。始めて見たときは、その近未来な姿に圧倒されました。車がまとう雰囲気といいますか、エモーショナルな部分も重要な決め手になります。車に乗り込んだときの匂いとか、アクセルを踏み込んだときの官能的なエンジンサウンドとか、人間の感覚に訴えてくる部分が差別化のポイントになります。
先日家族であるホテルに宿泊しました。歴史のある世界的に展開しているホテルです。部屋に入ると、ふかふかのベッドときれいに配置されたピローがあります。でも、子供が枕が臭うと言うではありませんか。私も鼻を付けて嗅いでみると確かに臭う気がします(臭覚は子供の方が敏感なのでしょう)。最終的に枕を全部交換してもらいましたが、枕の匂いは難しい領域です。部屋をゲストに届ける前に、ホテル側でもチェックしているはずです。きっとソフトウェアの「完成の定義」のように、チェック項目があることでしょう。
- 枕カバーの交換(上下・表裏のチェック)
- 枕の数
- 枕の配置(位置)
もしかしたら枕にスプレーを一かけて、もあるかもしれません。
しかし、顧客の受け入れ基準が分からない中で、枕の匂いをどう測定し、どうやって合否判断をするのかは至難の業です。
でも、こういった感覚的、抽象的、主観的な要素が、今後重要な差別化ポイントになります。人間の感情に訴えるようなエモーショナルな要素を、どうやって特定し、デザインし、プロダクトに落とし込んでいくか、それが商品の差別化戦略に繋がっていきます。
様々な価値観がある中で、万物を満足させることは不可能ですから、焦点を当てる「ペルソナ設定」が今まで以上に重要になります。そこには、通常の性別、年齢、家族構成、収入だけでなく、感覚的なアピールポイントとその判断基準も含まれます。
そして今の世の中、いい商品はすぐ真似されて、半年後には類似商品が出てくる時代ですから、常に対象となる顧客セグメントをモニターし、フィードバックを取り込み、プロダクトに反映していく仕組みが欠かせません。ターゲット顧客にとって重要なポイントが何であるかは、実際にプロダクトを展開してみることでしか検証できないのですから。対象顧客のUI/UX体験を最適化する為に、訴求ポイントを検証し、そこに継続的に投資していきます。
もはや、機能・スペックだけで売れる時代は終りました。物理的なわかりやすい違いではなく、私たちの感性やココロに訴える部分の重要性が増しています。人間のエモーショナルな要求をどうやって捉え、定義し、デザインし、プロダクトに込めて、しびれる顧客体験を届けるか、それがこれからの差別化戦略になります。