顧客価値を加速するのは「ゆとり」

顧客価値を加速するのは「ゆとり」です。「ゆとり」は時間だけでなく、空間も含みます。

例を挙げましょう。

毎日の通勤電車。朝9時頃の電車は特に混んでいます。混みすぎて乗れないこともありますし、乗れたとしてもギュウギュウ詰めで快適とは言えません。時には,乗客の荷物がドアに挟まって2回~3回とドアの開け閉めがあることもあります。目的地に移動するのに、満員だと時間がかかってしまうのです。

やっとの思いでオフィスビルにたどり着いても、エレベーターは長蛇の列です。長い待ち時間に、ここでも満員のエレベーターに乗ることに。ピークアワーの移動は、空いている時より移動時間がかかります。

ここで電車やエレベーターの利用率で見てみます。満員電車は利用率100%です。満員のエレベーターも利用率は100%です。一本の電車で運ぶ人が多ければ多いほど効率はよいと考えられます。エレベーターも同じです、たった1人乗せて20階まで移動するのと20人乗せて20階まで移動するのでは、効率がよいのは20人乗せた場合でしょう。

では、顧客価値はどうでしょうか。ここでの顧客価値とは目的地までの移動時間です。自宅から会社までの移動時間を意味します。満員電車は利用率は100%でしょうが、移動スピードは最長です。待ち時間に加え、電車の乗降にも時間がかかります。エレベーターも1人ならノンストップで到着しますが、満員ですと各階ストップになります。

利用率や稼働率が高く、効率がよければよいほど、顧客価値を届けるのに長く時間がかかることになります。

利用率100%、稼働率100%は価値の提供を遅らせてしまうのです。

12月のディズニーランドもクリスマスでとても混んでいます。収益や利益を考えますと、1人でも多く入園してもらうことです。結果、パークの利用率や稼働率は上がります。全てのアトラクションに長蛇の列ができることは経営側にとっては好ましいことでしょう。一方で、入園者の視点では、長蛇はよくないのです。人が増えれば増えるほど、顧客体験は劣化します。いつまで待っても乗り物に乗れないと不満がでます。楽しくありませんから、また来たいと思わなくなるのです。

オリエンタルランドはこのバランスをうまくとっています。入園制限を設けて、顧客価値のデリバリーも考えています。入園者を制限することで、顧客の満足を維持しているのです。

アジャイルで顧客価値を考えると、それはリードタイムの短縮やスループットの増加を意味します。これを実現するために、工程に制限を設けるのです。各工程の処理能力以上に作業が来るとさばけませんから作業が滞留します。作業の滞留は価値の流れを妨害します。

ポイントは作業をモリモリにして、利用率や稼働率100%を目指さないことです。経営者やマネジメントが注目すべきは顧客にとっての価値のデリバリースピードです。どれだけ速やかに顧客の満足を届けられるかが、腕の見せ所です。

ユーティリゼーション100%は顧客価値を生みません。ユトリが顧客価値を生むのです。

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