スクラムに完成の定義は不可欠である。たまに「チームが成熟していないので完成の定義はありません」と言われることがあるが、これはいけない。完成の定義はスクラムチームで掲げる品質条件である。これがないということは、品質は何もコミットしないということになる。
製品・サービスの完成は、本来、利用者が使える状態のことを言うが、1~2週間のスプリントで完成品質まで作りあげることが難しいこともあるだろう。そんな時は、段階的に完成の定義を拡張していく訳だが、始めてスクラムをするなら最低レベルから始めたらいい。最初のスクラムではいろんなことが起こるから、高すぎる完成の定義は非現実的でモチベーションも沸きにくい。最初はハードルを低くして、小さな完成と達成感を日常的に味わっていく仕組みが重要である。
例えばサッカーのゴールの定義は、ゴールネットにボールを入れることである。厳密にはネットに触れなくても、ゴールラインを超えたらゴールになる。だが、始めてサッカーをするチームにとってゴールすることは容易いことではない。相手チームと力の差がある場合、一生ゴールできないのではないかと感じることさえある。だから、やさしいレベルから始める。
例えば、こんな具合でレベルを上げていく。
- シュートで終る
- ゴール枠内のシュートで終る
- ゴールで終る
そもそもシュートしないとゴールは生まれないから、ゴールを狙ってシュートしたら全てゴールしたと定義する。大きく枠を逸れても、シュートすることが重要だ。
次に、シュートの精度をあげて枠の中にボールを蹴る。ゴールキーパーに止められたり、球威が弱すぎてゴール前で止まってしまっても構わない。枠内にシュートで終ればゴールと定義する。
最終的に、枠内にシュートし、キーパーの取れないところにコントロールしてゴールする。点数としてカウントされるゴールをゴールと定義する(本当のゴール)。
スプリントの度にチームが学びを仕入れ、経験値が上がっていけば、完成の定義を拡張する。低くても良いから最初から完成を定義し、小さな完成を日常的に味わっていくことが重要だ。小さくても完成を繰り返すことで、チームは自信を持ち、モチベーションも向上する。高い完成の定義は時として害になる。始めてのスクラムは最低レベルの完成の定義から始めよう。