世界のトヨタで実践されている自工程完結 (JKK) をご存じだろうか。
アジャイル(スクラム)にも多大な影響を与えた作業の進め方である。
自工程完結 (Ji-Kotei-Kanketsu) とは、その名前の通り、自らの工程を責任もって完結することである。自分が担うステップは完璧にやり遂げ、不具合や不適合な状態で次の工程に回さない。とても思いやりのある行動である。
トヨタ自動車では「品質を作り込む」という表現がよく使われる。
スクラム・アライアンスのスクラムマスター研修でも頻繁に取り上げられるが、品質の捉え方がトヨタと海外メーカーでは異なる。
例えば、BMWでは、一通りの作業を進めて最後に品質チェックを行う。白衣のお医者さんのような人達がチェックリストを見ながら、一つ一つ検査するイメージだ。
一方、トヨタでは、不具合があると作業を即座に停止する。そして、現場の作業者はその中断されたエリアに集まってきて、何が原因でどうして不具合が起こったのか議論する。
すぐに解明できないこともあるが、それでも速やかに調整して、それ以降の不適合品が出ないようにする。そうしないと、後続プロセスで不良品が大量に生産されてしまうからだ。
自工程完結とは、自分の作業ステップに不具合があったら、そのまんま流さないことだ。自分の工程で発生した不具合は、自分の工程でけりをつける。クリーンで完全なものを次の工程に回す。
品質を工程単位で保証するやり方である。作業者が品質も担保するから、「品質を作りこむ」と言われる。
工業製品やソフトウェア開発じゃなくても、なってないシーンは枚挙にいとまがない。
ペンやハサミを渡す時に、ペン先や刃を相手に向けて渡してはいけない。相手は、まずペン先を避けて、キャップをもらって、持ち直してから、使わないといけない。相手が書き始められるまでに余計な動作が必要になる。相手が使いやすい状態、相手がすぐに行動を起こせるよう整えて道具を渡してあげることが大切だ。
リオのオリンピックを覚えているだろうか。当時の日本の選手には100メートルを9秒台で走る選手は皆無だった。だが、400メートルリレーで日本は圧巻の銀メダルだ。
世界のトップリーグは9秒台であった中、なぜ日本チームが世界2位に食い込んだのか。それはバトンタッチの巧さにある。相手が欲しいタイミングで、ジャストインタイムで、相手が欲しいスピードで、相手がほしい位置にバトンを届けること。この自工程完結が世界のどのチームよりもうまくできたのだ。それが全ての結果に繋がっている。一人でできないことをチームで実現した好例だ。
不備や不具合は自分のプロセスで解決し、次の相手に流さない。次の相手には相手の望むタイミングで、望むペースで、望む位置に、流れるように届けるのが自工程完結の精神だ。
レストランでもナイフやフォークは取ってが近くにおいてあるだろう。あれはすぐに料理を楽しめる様にするはからいだ。料理が先に運ばれてきて、その後フォークナイフが並べられると待たないといけないし、料理を最高の状態でいただけない。ナイフフォークが反対だったら、持ち直す手間が発生する。
世の中にはワイナリーとか農場のそばにレストランがあって、テーブルに着くまでの道中も景色を楽しみながらドライブできるとか、食べる直前に目の前でソースをかけて、音・香り・色合いで楽しませてくれるレストランもある。そういう演出は歓迎だが、段取りがうまくいってないから無駄に待たされたり、道具の向きを変えたりしてこっちが気を遣うのはいただけない。
自工程完結とは、自分のすべき事を完璧に実施すると共に、次の工程の事も考えて、相手の欲しいタイミングで、欲しい状態で渡すことである。
次の相手の受入基準を確認して、その受入基準を自工程の中でチェックする。満たしていればゴー、満たしてなければノーゴーだ。
自工程完結は次の工程がお客様だと考え、自分の工程でクリーンで完璧なものを仕上げるコミットメントである。
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