英国プロジェクトマネジメントフレームワークであるPrince2の原理原則について見ていこう。
プリンスの原則は全部で7つだ。
そして、プロジェクトのあらゆる局面で、あらゆるコンテキストで適用する。
原理原則はプリンスの根幹を成すものだから、カスタマイズしない。プロジェクトの規模や置かれた環境によって、使い分けない。いつでもどこでも7つの原則全てを適用する。
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まず、原文である英語をそのまま引用する。
原則はプリンスの肝である。原文である英語で英国プリンスを、そのまんまストレートに味わって欲しい。
- Continued business justification
- Learn from experience
- Defined roles and responsibilities
- Manage by stages
- Manage by exception
- Focus on products
- Tailor to suit the project
つづいて日本語で。
- ビジネス正当性の継続
- 経験から学ぶ
- 役割責任
- 段階によるマネジメント
- 例外によるマネジメント
- 成果物重視
- プロジェクトのテーラリング
順番にひとつづつ見ていこう。
- ビジネス正当性の継続
一つ目は米国プロジェクトマネジメント協会のPMBOKにはない、とてもプリンスらしい原則だ。
プロジェクトを始める以前に、そもそもプロジェクト化する必要性を問うている。
プロジェクトは非常にお金がかかる。
普段の生活にはない、特別な事をするわけだからとてもエネルギーを必要とすることだ。
個人レベルで言うなら海外旅行をするようなものだ。わざわざ時間とお金を費やしてその国に行く意味があるのか、その価値はなにか、かかる費用に対して得られるであろうベネフィットは妥当なのか、総合的に評価して、旅行するかしないかを判断することである。
プロジェクトの場合、50人とか100人規模で、数千万円とか数億円かけて実施するわけである。ビジネスにとって意味があるか問うのは当然だ。
そして、「継続」とあるのは、この評価をプロジェクト期間中通して問い続ける事を意味している。
ひとたびプロジェクトを開始すると、仕上げることしか考えなくなりがちだ。だが、プロジェクトを取り巻く環境は常に変化している。だから、プロジェクト期間中継続して周りの状況を評価し、ゴーかノーゴーかを問い続けるのである。
もしプロジェクト途中でノーゴーになったら、プロジェクトを中止する。それまでかけたコスト(埋没コスト)を気にしてはいけない。意味のないことにお金を消費し続けるよりも、新たに投資が必要な案件に予算を振り分ける方が価値がある。「ビジネスケース正当性の継続」原則により、プリンス・プロジェクトはプロジェクト開始からプロジェクト終了まで、常に評価され続けることになる。
二つ目。
- 経験から学ぶ
これはプロジェクトに限った事ではないだろう。
全てのプロジェクトはなにかしらユニークだ。独自性があり、既存の仕組では通用しないから、通常業務で行わず、プロジェクト化する。だが、1から100まで全て目新しことばかりではない。どこかに似たプロジェクトはあるはずだから、そこから学ぼうとする原則だ。
仮に、自分の組織では初のケースでも、世界規模でみればどこかの企業が行っているだろう。先人の知恵を活かして効率よくプロジェクトを運営しよう。
私達が旅行に行くとき、初めての国なら、詳しい人にいろいろ聞くだろう。水道水は飲めるのか。治安は。言語や宗教は。ある程度リサーチしてから出かけるだろう。
土地に詳しい人に、どこの道がいつも混んでいるとか、どの道が工事中だと教えてもらえば、迂回して回避できる。
これから始めるプロジェクトに類似した案件の教訓から学ぶ事で、成功する確率はグーンと高くなる。謙虚になって経験者に聞こう。先人の知恵を活かそう。
プリンスでは最初だけでなく、プロジェクト期間中もプロジェクト終了時にもこの原則を適用する。
プロジェクト期間中も定期的に立ち止まって、振り返り、学び、それ以降のプロジェクトの実行に活かす。プロジェクト終了時は、プロジェクト全体の振り返りを行い、学びを記録する。将来的に、他のプロジェクトに活かすことができる組織の知識アセットになる。
3つ目。
- 役割責任
プロジェクトは特別なタスクフォースである。組織内外から集めたメンバーだから混合チームだ。専任メンバーもいれば、兼務のメンバーもいる。プロジェクト経験豊かなベテランもいれば、初めてプロジェクトに参画する新米メンバーもいる。様々である。そして彼らは普段の業務とは異なる役割をプロジェクトでは担う。
だから、誰が何をするのか明快に定義しておかないと、譲り合ってボールを地面に落としてしまったり、味方同士で激突して怪我をしてしまったりする。
プロジェクトという新たな枠組みで作業をするわけだから、役割責任は明確に定義して周知徹底しなくてはならない。
プロジェクトがかなり進んでから、「ビジネスアナリストの仕事がわからない。」「え、私がするの?」みたいな会話は枚挙にいとまがない。役割責任を徹底しよう。
4つ目。
- 段階によるマネジメント
だんだん短くなってきたとは言え、プロジェクトは長い。だから、プロジェクト期間をいくつかの塊に区切って、段階的に進めていく。
プロジェクト期間中、マイルストーンをいくつか設けて、その単位で予算を承認してもらう。
プロジェクト委員会も「3年分の予算をください」というと、怖くてなかなか承認してくれないが、「目先3ヶ月分の予算をください」と頼めばOKしやすい。
マイルストーンは作業や成果物の節目になるタイミングで設定する。そしてこのチェックポイントで本段階がどうであったかのパフォーマンス報告をして、次の段階の計画書を見せ、ビジネスケースの正当性を評価してもらい、次段階の予算を承認してもうのである。
巨大スコープのプロジェクトは、分解して、段階的に実行していく。最初の段階(ステージ)ができたらプロジェクト委員会に評価してもらい、次の段階に進んでいいか尋ねる。ゴーサインをもらったら次の段階に着手する。そして、その段階ができたら、プロジェクト委員会に評価してもらい、OKならまた次の段階に進むという流れだ。
プロジェクト・ライフサイクルをいくつかの段階に切って、段階毎に評価し、承認してもらう。段階単位で、評価し、承認をもらい、実装サイクルを回していくのである。
5つ目。
- 例外のマネジメント
例外時にマネジメントが介入する。例外のパラメーターは以下の6つだ。
予算
期間(納期)
品質
スコープ
ベネフィット
リスク
それぞれのパラメーターに客観的に測定可能な許容度を設ける。
それを超える場合、ただちに上級マネジメントに報告する仕組みのこと。これを「例外によるマネジメント」という。
例えば予算。
「段階のマネジメント」で話したとおり、プロジェクトは段階単位で進める。
各段階で使える予算は決まっている。例えば、その予算の5%が許容度だとする。プロジェクト途中で承認された段階予算の5%を超過しそうな場合、ただちにプロジェクト委員会に報告しなくてはならい。
期間であれば、許容度は+/-5営業日等。5営業日を超えて遅れそうな場合、ただちにプロジェクト委員会にエスカレーションする。
品質なら、防水要求300メートルに対する許容度ー0メートル、+10メートル等。300メートル以下の許容度はゼロだから、300メートル防水が実現できない可能性があれば、ただちにプロジェクト委員会に注意喚起して判断を仰ぐ。
スコープなら、必須要件は100%デリバリー、望ましい要件は70%以上デリバリー等。
必須要件で実装できないものがある場合、あるいは望ましい要件の半分しか実現できない場合、エスカレーション対象となる。
ベネフィットなら、ビジネスケースが掲げるベネフィットの+/-3%等。100万ドルの見込み利益に対して、97万ドル~103万ドルを外れるベネフィットになると予想されたら、プロジェクト委員会への報告が必要になる。
リスクなら、リスク予算が段階予算の5パーセント等。
今回の段階予算が1億円である場合、リスク予算が500万円を超えるなら、プロジェクト委員会へのアラート出しが必要だ。
この6つのパラメーターで許容度を設けて、そのリミッターを逸脱しそうな場合、プロジェクト委員会にエスカレーションする。こうすることで、プロジェクト委員会は常にプロジェクトに貼り付かなくてすむ。
プロジェクト委員会の負荷を下げつつ、効果的にプロジェクトをコントロールし、必要な指揮を発揮できるメカニズムである。
6つ目。
- 成果物重視
プリンスでは作る「もの」、すなわち成果物に焦点をあてる。
当然ものを作る為に、各種作業が発生するが、作業内容ではなく最終的に作る「もの」に注目する方がプロジェクトの目的を達成しやすい。
理由として、成果物とその品質については共通の認識を得やすいが、それを作る方法はいくつもあるからだ。
目的は成果物とのその成果物が備えているべき品質であって、それを実現するためのタスクではない。
山に登る際、登り方はいくつもあるだろう。歩いてもいいし、自転車でもいいし、自動車でもいいし、ヘリコプターで山頂まで行き、上からハシゴで降りてもいい。
プロジェクトを通して生み出すアウトプットに焦点をあてることで、最終目的の達成率が高まる。これは正にプロジェクトの成功率が高まることを意味する。
7つ目。
- プロジェクトのテーラリング
プリンスはあらゆるプロジェクトに適用可能だ。巨大プロジェクト・小さなプロジェクト、複雑なプロジェクト・単純なプロジェクト、リスクの高いプロジェクト・比較的リスクの低いプロジェクト、ハードウェア・ソフトウェア、製造業、サービス、金融等業種も問わない。
プロジェクトが置かれたコンテキストに合わせるために、プリンスのプロジェクトはテーラリングされる。
エリア横断的でない、単独ドメインに特化したシンプルなプロジェクトであれば、チームマネージャーがプロジェクトマネージャーの役割を務めることも多い。大抵、そんなケースでは、プロジェクトエグゼクティブがシニアユーザーの役割も兼務する。
プロジェクトの始動プロセスとプロジェクトの立上げプロセスを纏めて、プロジェクト要約書とプロジェクト立上げ文書も統合し、一度のゲート承認で、実装段階に進むこともある。
これらのテーラリングはプロジェクト立上げ文書に記載して承認してもらう。
以上がプリンスの7つの原則だ。
繰り返すが、プリンスの原則はいつでもどこでも常に適用する。プリンス基準のプロジェクトであるためには、これらの7つの原理を漏れなく適用することが必要である。
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