スクラムの経験的プロセス制御の理論(経験主義)

スクラムは「経験主義」と言われる。

一体、どういうことなのだろうか。

まず、スクラムガイドを確認しよう。
以下はスクラムガイドの抜粋である(2017年11月版)。

スクラムは、経験的プロセス制御の理論(経験主義)を基本にしている。経験主義とは、実際の経験と既知に基づく判断によって知識が獲得できるというものである。スクラムでは、反復的かつ漸進的な手法を用いて、予測可能性の最適化とリスクの管理を行う。

続いて、英語版も確認しよう。

Scrum is founded on empirical process control theory, or empiricism. Empiricism asserts that knowledge comes from experience and making decisions based on what is known. Scrum employs an iterative, incremental approach to optimize predictability and control risk.

経験主義(empiricism)について、さらっと説明されている。

では、「経験主義」とはなんなのか、ウィキペディアで確認しよう。

経験論(けいけんろん)、あるいは、経験主義(けいけんしゅぎ、英: empiricism)とは、人間の全ての知識は我々の経験に由来する、とする哲学上または心理学上の立場である(例:ジョン・ロックの「タブラ・ラサ」=人間は生まれたときは白紙である)。中でも感覚・知覚的経験を強調する立場は特に感覚論と呼ぶ。

経験論における「経験」という語は、私的ないし個人的な経験や体験というよりもむしろ、客観的で公的な実験、観察といった風なニュアンスである。したがって、個人的な経験や体験に基づいて物事を判断するという態度が経験論的と言われることがあるが、それは誤解である。

日本語では、汎用的な「経験論」になっている。

では、英語のempiricismはどうだろう。

Empiricism in the philosophy of science emphasises evidence, especially as discovered in experiments. It is a fundamental part of the scientific method that all hypotheses and theories must be tested against observations of the natural world rather than resting solely on a priori reasoning, intuition, or revelation.

Empiricism, often used by natural scientists, says that “knowledge is based on experience” and that “knowledge is tentative and probabilistic, subject to continued revision and falsification”. Empirical research, including experiments and validated measurement tools, guides the scientific method.

ウィキペディアには、日本語版に「実験」、英語版に “experiments”という言葉がでてくる。

日本語で、「経験主義」とか「経験的プロセス」というと、経験を通してわかる、と安易な解釈になってしまいがちだ。実際には、「科学的実験」という概念を含む言葉である。

エクスペリエンス (Experience)とエクスペリメント(Experiment)は、共にラテン語の「試す」という言葉から来ているが、意味するものは異なる。

エクスペリエンス

  • 個人的
  • 経験・体験そのものが目的
  • 必ずしも意思は伴わない

エクスペリメント

  • 客観的
  • 実験そのものが目的ではない。実験を通して得られる結果(データ)から、状況を検証し判断する
  • 当事者の意思を伴う

2つの違い、わかるだろうか。

経験や体験は、個人的なものである。
同じスキューバダイビングをしても、虜になる人もいれば、そうならない人もいる。海に新しい世界を発見して魅了される人と、自由に呼吸ができなくて怖いと感じる人もいる。

体験したいと思ってトライするケースもあれば、たまたま付き合いで体験するケースもあるだろう。
海外で、運悪く、盗難にあうケースもある。これも、望まない経験をしてしまうケースだ。

一方、実験には明確なゴールがある。
あらかじめ基準値があり、実験を通して定量的なデータを取得する。実験結果に基づき、状況を検証し、判断を行う。

「経験主義」の字面だけで理解した気になると、スクラム実践者として厚みがでない。

圧倒的な目的意識があり、実験を通して、科学的に証明し、論理的に判断する。

「経験主義」とは、科学的に実験を繰り返しながら、本質的な顧客価値に迫っていくことなのである。

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